消費税の導入は、89年の4月から。消費税率の引き上げ提案で民主党は参議院選挙に負けたというよりは、明確なビジョン提案なしで安易な発言を繰り返したから負けたのだ、という印象があります。
竹下政権の時代のことだった。当時の竹下総理は消費税導入にあたって、「6つの懸念」があると宣言した上で、消費税の導入に踏み切った。
六つの懸念とは、
1.逆進性
2.不公平感
3.社会の中堅層に過大な負担を与える可能性
4.税の引き上げが容易に行われるかもしれない
5.事務負担が増える。みなし税率の問題もある
6.インフレ、便乗値上げの可能性
であるとした。この6つの懸念は妥当かどうかは別として、吉崎氏は「昭和の政治家は用意周到だった」と語ったのは興味深い。自ら先に問題点があることを明示して、唐突な印象を与えないような配慮があった、ということは前・現政権は見習う必要がある。
これらの6つの懸念のうち、最大の問題は「逆進性」である。
「逆進性」を簡単にいうなら、収入が低い人ほど、収入に対する税負担の割合が大きくなる、ということ。
現在年収400万円の世帯は、平均で、消費税率5%計算で、年間約16万円消費税を支払っている。
年収1000万円の世帯は、平均で、消費税5%計算で、年間約30万円消費税を支払っている。
もし税率が10%になると、所得が低い人ほど年収に対する税金の割合が多くなる。
これが逆進性で、本来であるなら、所得の多い人からより多い割合で税を取るべき。
これを解消するには2つの解決策がある。
ひとつは、「軽減税率」。
これは食料品や生活必需品には税金をかけない/もしくは税率を低くするという方法。
しかし、どこまでが生活必需品なのかの線引きは困難で、有名なのは、ドイツのマクドナルド。
テイクアウトだと買って帰る「食料品」扱いで消費税はかからないが、持ち帰らずにその場で食べると、「食品サービス」として扱われて、消費税がかかる。
カナダのドーナツの扱いも有名で、5個以上買うと非課税で、5個以内だと課税対象となる。
これは1度に5個もその場で食べる人はいないだろうから、5個以上は「食料品」扱いで、5個以内はその場で食べるものとして課税対象となる、とのこと。当然、複数の集まりでドーナツを買う場合、ひとりの人間が全員の注文をまとめて5個以上買って、あとで精算すれば非課税となる。
かつては物品税を日本では採用していて、コーヒーは課税対象だが紅茶は非課税、といったような合理的とは言えない課税がなされていた時代があり、軽減税率はその時代の発想に戻ってしまうところがある。軽減税率は主に自民党で検討されている。
もうひとつの逆進性への回答が「還付」。
ただし還付をするとなると所得の把握が必須となるため、納税者番号のような制度が必須となる。
また、年収いくらを還付ラインとするかは難しい問題で、菅総理自身、選挙中の演説で年収200万を境界とすると発言したその日のうちに300万円にする、400万円にする、といったふうに発言があっという間にブレてしまった。還付制度は確実に事務手続きや制度を複雑化する。
還付による逆進性対策は民主党で検討されている。
竹下元首相が語った6つの懸念の他に「駆け込み需要ができる」問題がある。97年の税率引き上げの際には1-3月期の決算は大幅に伸び、4-6月期は崩れる、という現象が起きた。
売上にデコボコができるのは経営に悪影響を及ぼす場合がある。
難しいことだろうが、消費税率をあげるさいには、企業の論理からすれば、1月1日に上げて欲しい。
現在の国家予算と赤字国債の状況を前提条件として、何を改善したいからいくらの税率アップになるのか、はっきりとビジョンを示して小手先の人気取りに走ったりしなければ、ここまでの支持率急落はなかったのではないでしょうか。
消費税の引き上げはいずれ避けられなくなりそうですが、用途と先行きを明確にして、導入後の経緯によって責任をだれがどう取るのかをはっきりさせてもらう必要があるかと思います。