2010年7月18日日曜日

弓作りの匠 小山雅司さんの話を聞いた。

7月7日の「くにまるワイド ごぜんさま~」での、弓道の弓を作るメーカー「小山弓具」の会長さんの話が大変に興味深かったです。

そもそも弓道のことなんか、やったことのない人は全然知らないのが普通なのではないでしょうか。
わたくしもその「なんにもしらない人」だったので、話のすべてが興味深かったです。
録音がないので話が正確ではないかもしれませんが、私が面白く感じたのは次の二つ。

・そもそも、竹製の弓は壊れるものである
・そして竹製の弓はいつ壊れるのかは誰にもわからない

竹製の弓というのは昔も今も、「壊れるもの」なのだそうです。
どの程度で壊れるのかは売っているお店でさえもわからないとのことです。
天然素材の竹を競技用の弓として調整・加工すると竹に負担がかかり続けることになるのでしょう、多分。
で、ある日、高校生のお客さんが買った弓が壊れてしまって、その高校生のお父さんがお店にやってきた。小山さんは弓というのはある程度は壊れるものだという話をしたところ、そのお父さんは小山さんに高校生の息子さんが一生懸命アルバイトをして弓を買った旨を語ったそうです。
その話を聞いた小山さんは弓道のためにはどうしても耐久性のある弓が必要だと考え、グラスファイバー製の弓を開発して売り出した、という話だったのですが、色々、考えさせられることがありました。

まず、グラスファイバー製の弓ができたとき、当初はこれを弓と認めない人々が多くいて、業界から締め出されそうになったという話が興味深いです。
弓を売る人々からすれば商売のタネを小山さんの会社に独占されるおそれがあること、弓道の競技者からすれば竹製の弓とは必ずしも同等ではないものだったこと、等々あったのではないでしょうか。
当時の弓道協会(?)のエライ人が結局、竹製でグラスファイバー並に壊れない弓を作れない以上はグラスファイバーの弓は入門者にとっては絶対に必要なものなので許可をする、という方針を出してくれて、グラスファイバーの弓は市民権を得ることができた、という話なのですが、私はこの話に単純に感動はしましたが、同時に、こんなこと、考えてました。

 もし自分がこの時に弓道関係者であったなら、どう思ったか?

立場によりけりで感想は変わっただろうな、という結論しかでないですかね。
もし自分が弓道競技者で、金持ちであったなら、伝統を壊す弓なんぞけしからん、と思ったでしょうし、もし自分が弓道競技者で貧乏であったなら、壊れない弓バンザイ、だったでしょうし、もし自分が小山さんのライバル会社の社員であったなら、グラスファイバー邪道なり、だったでしょうし、もし自分が、、、と考えると自分がこの時にどの立場にいたかによって、出した結論がちがっていただろうなぁ、と思います。

 じゃあもし自分が小山さんだったら、グラスファイバーの弓を作ろうと思ったのか?

思わなかっただろう、というより、思えなかったに違いない、というのが感想。
小山さんの会社は弓道の世界でも名門で、(推測ですが)竹製の弓を作り続けても食っていけたでしょう。また、弓が消耗品であることはその世界の人には常識であるなら、ある一定の需要がずっと続くであろうことも予想できます。弓を壊してしまった高校生には気の毒だとおもったかもしれませんが、安易に生きていくのをよしとするわたくしは、それも飯の種だと割りきって生きていくにちがいありません。
小山さんはひとりの高校生を気の毒とおもってグラスファイバーの弓を開発しましたが、この視点は「将来」を見据えているから出てきたものだと思います。
わたくしは将来に希望のない、のんべんだらりと生きてきたダメ中年なのですが、だからこそ、余計に、このグラスファイバーの弓の話に感銘を受けました。人の為に何か新しいことをすることは、今の安穏さに敵対するし、今利益のある人に敵対するし、いろんな意味で「今」考えるとメンドウなことばかりです。
でも、世間一般の常識からいって高価な弓が簡単に壊れるのは問題で、それは将来弓道そのものを緩やかに衰退させるかもしれない問題だと小山さんは感じたからこそ、業界の常識を打ち破った商品を開発できたのでしょう。
私がこの小山さんがすごいと思うのは、「今」が安定している立場の人であろう小山さんが、常識を打ち破ったということです。
単にその時々安穏さを追いかけ続けちゃいけないんだな、と今日も自分の仕事の勉強は一切せずにわたくしはお酒を飲みながら考えます。
偉大さってなんでしょうかね。